時おり、鬼のように読む

本屋が大好き、ゆるふわOLの読書感想日記です。ネタバレを大いに含みます。

「舟を編む」/三浦しおんさん

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通勤のお供に少しずつ読んでいたこちら、やっと読了しました。
本屋大賞受賞、松田龍平・宮﨑あおい主演で映画化もされた三浦しをんさんの「舟を編む」です。

出版社に勤める馬締光也をはじめ、辞書編集部の個性的な面々の辞書編纂にかける熱い思いが、柔らかく読みやすい文章で綴られています。

これは私の好きな本のひとつの共通点なのですが、このお話も登場人物が皆生き生きとして個性的で、退屈せずに最後まで読むことができました。
特に主人公のまじめ。
彼が物語で一二を争う、(〝言葉〟に対しての)変態のため、物語は常にどこかコミカルに、おかしみを持って進んでいきます。

この話に登場する人物は皆、この馬締のことが大好きなんですね。
ヒロインの香具矢とかなり早い段階でくっついたのは少し驚きました。
初夜は香具矢の夜這い!
まさかラブレターの返事が直で夜這いとは…肝の据わったヒロインです。
翌日すぐに事を見抜く西岡さんはちょっときもいです。(好きです)

この西岡さんが馬締に負けず劣らず本当に魅力的なんですね。
最初は軽薄でちょっと苦手だな…と思っていたのですが、三章で彼の繊細で人間らしい一面が見えてとても親しみが湧きました。
人ってほんとに無い物ねだりだから、西岡さんにしたらひとつの事に打ち込める才能ある馬締が眩しく、時に厄介な存在に見えてしまうんでしょうが、当の馬締にしたら本当に輝いて見えるのはきっと西岡みたいな人のはず。
ただ、数としてはきっと馬締みたいな方が少ないから。
だから西岡や私なんかの目には馬締が眩しく映るのかもしれないなあと思いました。
西行のくだりは小さなカタルシスがあって、ちょっと胸が熱くなりました。


↓念のためですが、以下核心に触れるネタバレがあります。





本に囲まれた松本先生の家は、紙が音を吸収してどんなに静かなんでしょうか。
そもそも、紙って本当に音を吸収するのかな?
(木は吸収するみたい。だから森は静かなんだそうです。)

私は以前、家族のひとが亡くなったときに、故人が生前に揃えた電化製品や家具を見るのがつらい時期がありました。
家の調度品が他人のような顔をして見える…とはどこかで読んだことがあるような気がしますが、まさにそんな感じで、家の中の物たちに急にそっぽを向かれたような気がして寂しい気持ちになったことを覚えています。(今はまったくそんなことはないです。)
松木先生が亡くなって、奥さまは先生の残した本の山々に囲まれてつらくはなかったでしょうか。
存在感があるものほどなくなった時の喪失感が大きいので、そこが少し気になりました。
馬締と香具矢の、先生を思う夫婦の会話が素敵でした。




大渡海の装丁、とても素敵ですね!
紺碧の海とクリーム色の月光。
それを映した水面は帯のような銀色で。
まじめならずとも、物語をあそこまで読み進めた人ならグッとくるであろう場面です。

「言葉は、言葉を生みだす心は、権威や権力とはまったく無縁な、自由なものです。(中略)自由な航海をするすべてのひとのために編まれた舟。」

松本先生の言葉。
なんというか、本当にそうゆう気持ちに溢れた本でした。
とても面白かったです。


「深夜食堂」14巻/安倍夜郎さん

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出たー!ドラマ&映画と絶好調の深夜食堂、待望の14巻です。
今回のカバーはアサリとキャベツの酒蒸し+冷酒。
柔らかいピンクにキャベツの緑が効いて、とても春らしく、可愛らしい表紙です。

帯の「朝までいたくなるのはお腹が満たされるからだけじゃない。」…わかる!
私も飲み屋のカウンターが大好きで、お店が許してくれる限りいつまでものんびりしていたいタイプです。
満腹になって早く帰って眠るのでもなく、小さく硬いカウンターの椅子で、それでもそこにいてしまうのは…何なんでしょう。
私の場合は気持ちよく飲めて、まわりもいい感じになっていると、楽しくっていつまでもいつまでも飲み続けてしまいます。

さて、巻数を重ねて、以前よりさらにパンチの効いた、味わい深いエピソードが多くなっています。
中でも印象的だったのが子連れのプロ雀士とホステス嬢のお話「たまご豆腐」です。

プロ雀士の大神さんが、亡くなった昔の恋人の連れ子の大作をつれて深夜食堂を訪れ、そこで大作の母親似のミドリというホステス嬢に出会います。
ミドリにはたちの悪いヒモがいて、そのヒモを大神さんが賭け麻雀でこてんぱんにして街から追い出すのですが、逆上したミドリは大神・大作親子を恫喝して街から去らせてしまうんですね。

この時の、逆上したミドリの顔が大変怖い。
髪を振り乱して、頬もこけて、大作と仲睦まじくしていた頃の優しいミドリの面影は微塵もありません。 
大作には見せたくなかった姿です。

性悪男のカズマはどうなったっていいけど、傍観するしかないマスター含め登場人物が皆哀れで、人って愚かで悲しい生き物だなあと思わずにはいられませんでした。

早く沢山時間が流れて、大作はミドリの優しかったところを、ミドリは自分が手放したものの大きさを思い返せるようになればいいなあと思いました。
この短さで、とてもよく出来たお話です。


もうひとつ、私の好きなお話が巻末の「おにぎり」。
前述の「たまご豆腐」とはうって変わって、こちらは穏やかで静かなお話です。

名バーテンの田辺さん、「店(バー)からここに来るまで今日は何にしようかアレコレ考えるが楽しみ」…うん、これもよくわかる!(笑)

私も「今日は飲み行くぞ!」という日は、何を食べよう、何を飲もうかとワクワクしながらお店に向かいます。
最初はビールが飲みたいけど、あれを食べるならワインを合わせたいなあとか。
贅沢ですね。

田辺さん、おにぎりを食べる姿が上品でほんとに可愛いです。
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かわいい…。

田辺さんの淡い恋心、お相手のママは登場しませんが、よっぽど可愛らしく素敵な女性なんだろうなあと自然と頬が緩みます。

そして、この回の隠れた見所はバーに訪れる私服のマスター!
いつもの作務衣も素敵だけれど、私服でマティーニを飲むマスターは色っぽくて本当に素敵です。

あと、物語にさして関係ないのに大ゴマでどーんと出てくるレバにらもとっても美味しそう…。
これにビールなんてもう…。
他の人が食べてるものが美味しそうに見えるっていうのは、きっとこうゆうことですね。(笑)

ドラマもいいけどやっぱり原作もいいです。
こんなお店がほんとにあったら、何をつくってもらおうかなあ。
考えただけで、おなかが鳴ってしまいそうです。


「シコふんじゃった。」/周防正行監督

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さっそく「読書」感想からしれっと外れてしまいましたが…
先日、《逗子海岸映画祭》で上映されていた「シコふんじゃった。」がとても良かったので!
1992年公開。監督は「Shall we ダンス?」(これも面白い!)が大変有名な周防正行さんです。

この映画祭は、ビーチに建てられた大きなスクリーンで皆で映画を観る、という趣向なんですが、当日はお祭りのゲストとして出演者の竹中直人さんがいらしてたんですね。
昼間からDJブースでトークしたり、上映直前はスクリーン前で鼻歌を披露したりと会場を大変沸かせてくださいました。なので、スクリーンに竹中さんが映ると心なしか観覧席が暖かいムードに包まれたりしました。(笑)
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ざわざわ…

映画は終始とても落ち着いたムードで、いっそ淡々とも思えるくらいのスピード感でストーリーがサクサク進んでいきます。
人物は誰もが個性的で長所も短所もとても魅力的に描かれていて、どのシーンも面白かったです。

ヒロイン役の清水美沙さんはいつもとってもきれいで、バーで肩を出した姿はほんとに色っぽかったし、相撲部に来るシーンはいつも清潔感があって男子と混じって私もドキドキしました。
怒るシーンも美しかった。
教授役の柄本明さんは、たまに出るひと言が本物の教授のようで、これも違う意味でドキッとしました。(笑)
「君は学校に何しに来てんだ」「色々やってくれるな、最近の学生は」など…
田口浩正さん扮する田中が「強くなりたい」とこぼした時の先生の表情。
先生の中でも何かが変わった瞬間ですね。すごくいいシーンです。
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音楽。穴山教授の実家に合宿しにいく場面で「悲しくてやりきれない」が流れます。
なんでこの曲にしたんだろう?
曲調は本当にぴったり(青い空とこの曲!)ですが、歌詞は気にしなかったのかな…と思いきや、ここで春雄が振られてしまうんですね。
彼の気持ちに沿わせた選曲でもあるのかなあと勘繰ってしまいました。
「林檎の木の下で」もほんとに可愛くてすこし間延びしていてこの映画にぴったり。

竹中直人さんは…ほんとに相撲が好きそうで可愛かったです。(笑)
リーグ戦で惨敗した皆が一転して相撲を続けることになり、モッくんにまわしを締めている時の嬉しそうな竹中さんの顔!
頭捻りや内無双の説明を得意げにして。
清水美沙さんを前にすると中学生男子みたいに固まったり。
新歓で土下座する竹中さんは、すごくカッコ良かった!…と私は感じました。
潔さが男らしい。
あと、おなら。(笑)
笑いすぎて死ぬかと思いました。

モッくんは精悍として本当に格好良かったです。何も言葉がないくらい。
ライバル校の主将、倉高と対峙した時の静かで澄んだ目が。
塵手水(お相撲さんが試合の前に両腕を広げるやつ)、とっても綺麗でした。

他にも書きたいことはあったけど(スマイリーの英語の発音の良さとか←嘘です。)、長くなってしまったので…
最後に、友人が撮った映画祭の写真を。
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楽しい時間でした。
すてきな映画です。

「三崎日和」/いしいしんじさん

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作家いしいしんじさんが三崎での暮らしを日記形式で描いたエッセイです。
副題は「いしいしんじごはん日記2」。その土地で採れたまぐろやむつなど沢山の魚介が食卓を彩ります。

まず、いしいさんが日々たいへんきちんとした食事をとられてることに驚きます。(失礼!)
ごはん日記」の名前のとおり、その日に食べたものが毎日書き添えられていて、どれもが美味しそう。鯖をしめたり鯛を塩焼きや西京漬けにしたり(めといかの登場回数の多さ)、さまざまな調理法でたくさんの野菜を食べお酒もたっぷりと飲み、とても充実したおうちごはんがシンプルかつ瑞々しく描かれています。

個人的にいしいしんじさんはとても好きな作家の方で、この人の書くお話はほとんどが嘘やおとぎ話のようなのに、ある一定のところからはすべて本当のことしか描かれてないような気がして、そこにとても惹かれます。
(いい本とは、みんなそうあるべきなのかもしれません。)

いしいさんもジョジョ、好きなんですね!
私も好きです。なんだか嬉しい。(笑)

巻末にのぶさん•のんちゃん(まるいち魚店のおふたり)との対談が載っています。
この対談、パンチが効きすぎていて日記本文がなんだか頭からすっぽり抜けちゃいました。(笑)
さすがいしいさん。

力が抜けてるようでいて、いつも頭は冴え冴えとしている。
すごく不思議で、魅力的な作家さんだと思います。



「みんなの鎌倉」OZmagazine201505号

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毛色を変えて、今日は情報誌の感想文です。
およそ本と呼べるものなら、なんでも(ゆる〜く)読みといてまいります。

さて、今月号のオズマガジンはGWに合わせて?鎌倉特集です。
私の住んでいる藤沢市とはお隣同士のため、気軽に訪れることのできる観光地。
表紙のkikiさんとあんみつ、涼やかで楽しげでとっても素敵ですね。

中身は、ほとんどが飲食店の紹介です。
どれも美味しそう!
でも、1日で回れるレストランって、ほんとにわずかですよね。
そういう意味では、本当はこの本は何度も行ける地元の人向けの雑誌なのかもしれません。

鎌倉に住まわれてる方の対談も多く、海と、お寺と、食事と。鎌倉の魅力がたくさんつまった一冊です。
…もちろん私も鎌倉は大好きなのですが、いろんな思い出がありすぎて、手放しで「鎌倉大好き!サイコー!」とはちょっと言いづらいです。
あと、鎌倉の人、意外と最初は冷たいじゃん!って思うことも多い。(笑)
多分私がまだこの土地にハマりきれてないんでしょうね。
だから、観光でたまに来て思いきり楽しんだり、あるいはこの雑誌に載ってるようなどっぷりハマって鎌倉を愛せている人たちがなんだか眩しいです。

ちなみに、私が好きなお店はここに載っていないカジェヘロというカフェレストラン。
内装が大変お洒落で、麻婆豆腐が絶品!
そして店員さんがイケメンです。(笑)
お肉の冷製、ちゃんと人数分にしてくれて嬉しかったなあ。
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美味しそう…。

オズマガジン、通常のサイズと持ち運びやすいプチサイズが選べて素敵ですね。
私は行楽のお供に、プチサイズを購入しました。
なんだかんだ言って、何度も出かけたくなる場所。
良いところです、鎌倉。

「太陽が見ている(かもしれないから)」2巻まで/いくえみ綾さん

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1979年のデビューより36年間第一線で活躍し続けているいくえみ綾さんの新刊です。
絵柄は古くなるどころかますます洗練されていき、女子も男子も大変可愛らしく魅力的に描かれています。
 
1人の男の子をめぐる、2人の女の子のお話。
読んでいて胸が「キュッ」というよりも「ギュッッ」と苦しくなります。
 
凛として美しく、同級生と居ても埋没しない日帆のような女の子っていますよね。
私のすごく身近にも、日帆のように存在感のある大変美しい女性がいます。
なので、岬が日帆に嫉妬してしまったり、まるで恋してるみたいに目をそらせなくなる気持ちが痛いほどに分かります。
(「潔く柔く」の百加とカンナのように)
(余談ですが、私はいくえみ男子の中では古屋寿が一番好きです)←ほんとに余談(笑)
 
楡は、どっちが好きなんだろう。
2巻を読んだ感じだと、岬に特別な感情を抱いているようにも読めるけど、若い男の子の考えることは私には何もわからない。(いくえみさんの懐の深さ!)
いっそ、全く他所の女の子を好きになってしまえばいいのにとつい思ってしまいます。…いや、それもやっぱりイヤかも。
 
楡のお父さん、楡が自分のためにお金を貯めるのであれば許してくれるんですね。
あの一言があるから、彼のことも本当には憎めなくなってしまいます。
 
ラスト近くで楡と飯島兄が女の子を品定めしていた葉山のカフェは〈caban〉ですね!
このブログのアイコン(スマホのみ表示?)は、正にそちらの写真です。(笑)
私も大変好きな場所なんですが、男子高校生が2人で訪れるとは、オシャレすぎて許しがたい。
 
この先、もっと明るくなるといいなあ。
 

「ダンジョン飯」1巻/九井 諒子さん

「ずっと黙っていたが、俺は魔物が好きだ」
「そのうち味も知りたくなった」

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わーい、買えましたダンジョン飯!
有隣堂twitterで追加入荷を知り、その日のうちに買いに行きました。

…面白い!
まず絵がとっても上手で可愛く、読みやすいですね。
男子はかっこよく、女子供(←違…)は可愛く、モンスターは不気味に描かれ、それぞれがどうにも魅力的です。

魔物が下拵えされて、食材へと姿を変えていく様が見事です。
個人的には、引っこ抜かれたマンドレイクがしっかり不吉で恐ろしいところが良かったです!
そしてみじん切りにされ、頭を箸でつままれるマンドレイク……。絵が上手なだけに、なんとも言えない気持ちになりました。

ローストバジリスクと杖を持ち間違えるエルフのマルシルが本当に可愛いです。(笑)
ライオスの異常なまでの魔物への執着心やカルチャックの口の悪さなど、キャラクターの欠点がそれぞれのどうしようもない魅力になっていて、気持ちよく読めます。

動く鎧は、ちょっと食べるのに勇気がいるかも…。
バジリスクの卵も、生はちょっと厳しそうです。
ローストバジリスクや、大サソリと歩き茸の水炊きはぜひ食べてみたい!かも?

ちゃんと妹、消化されずに戻って来れるといいなあ。(笑)