時おり、鬼のように読む

本屋が大好き、ゆるふわOLの読書感想日記です。ネタバレを大いに含みます。

「舟を編む」/三浦しおんさん

f:id:early-summer:20150530223438j:image
通勤のお供に少しずつ読んでいたこちら、やっと読了しました。
本屋大賞受賞、松田龍平・宮﨑あおい主演で映画化もされた三浦しをんさんの「舟を編む」です。

出版社に勤める馬締光也をはじめ、辞書編集部の個性的な面々の辞書編纂にかける熱い思いが、柔らかく読みやすい文章で綴られています。

これは私の好きな本のひとつの共通点なのですが、このお話も登場人物が皆生き生きとして個性的で、退屈せずに最後まで読むことができました。
特に主人公のまじめ。
彼が物語で一二を争う、(〝言葉〟に対しての)変態のため、物語は常にどこかコミカルに、おかしみを持って進んでいきます。

この話に登場する人物は皆、この馬締のことが大好きなんですね。
ヒロインの香具矢とかなり早い段階でくっついたのは少し驚きました。
初夜は香具矢の夜這い!
まさかラブレターの返事が直で夜這いとは…肝の据わったヒロインです。
翌日すぐに事を見抜く西岡さんはちょっときもいです。(好きです)

この西岡さんが馬締に負けず劣らず本当に魅力的なんですね。
最初は軽薄でちょっと苦手だな…と思っていたのですが、三章で彼の繊細で人間らしい一面が見えてとても親しみが湧きました。
人ってほんとに無い物ねだりだから、西岡さんにしたらひとつの事に打ち込める才能ある馬締が眩しく、時に厄介な存在に見えてしまうんでしょうが、当の馬締にしたら本当に輝いて見えるのはきっと西岡みたいな人のはず。
ただ、数としてはきっと馬締みたいな方が少ないから。
だから西岡や私なんかの目には馬締が眩しく映るのかもしれないなあと思いました。
西行のくだりは小さなカタルシスがあって、ちょっと胸が熱くなりました。


↓念のためですが、以下核心に触れるネタバレがあります。





本に囲まれた松本先生の家は、紙が音を吸収してどんなに静かなんでしょうか。
そもそも、紙って本当に音を吸収するのかな?
(木は吸収するみたい。だから森は静かなんだそうです。)

私は以前、家族のひとが亡くなったときに、故人が生前に揃えた電化製品や家具を見るのがつらい時期がありました。
家の調度品が他人のような顔をして見える…とはどこかで読んだことがあるような気がしますが、まさにそんな感じで、家の中の物たちに急にそっぽを向かれたような気がして寂しい気持ちになったことを覚えています。(今はまったくそんなことはないです。)
松木先生が亡くなって、奥さまは先生の残した本の山々に囲まれてつらくはなかったでしょうか。
存在感があるものほどなくなった時の喪失感が大きいので、そこが少し気になりました。
馬締と香具矢の、先生を思う夫婦の会話が素敵でした。




大渡海の装丁、とても素敵ですね!
紺碧の海とクリーム色の月光。
それを映した水面は帯のような銀色で。
まじめならずとも、物語をあそこまで読み進めた人ならグッとくるであろう場面です。

「言葉は、言葉を生みだす心は、権威や権力とはまったく無縁な、自由なものです。(中略)自由な航海をするすべてのひとのために編まれた舟。」

松本先生の言葉。
なんというか、本当にそうゆう気持ちに溢れた本でした。
とても面白かったです。